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アジュールロー
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2014 / 06 / 27
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 この日も私はスカイプにログインしていた。
 検索リストにたまたま【Shiori】という登録名がヒットした。クリックしてプロフィールを見ると【気軽にお話しできる人を探しています。スカイプ初心者です】という内容だった。写真はなく、すごく素っ気ないプロフィールだった。でも、そういう素朴なところがネット慣れしていない感じがして好感が持てた。
 私はすぐにツーショットチャットを申し込んだ。
 この反応があるまでの時間がもっともしびれる。普通に無視されることも多いし、私のプロフィールを見て着信拒否にしてくることもあるし、性格のひねくれた男がなりすましの罠にハメようとてぐすねを引いていることもある。
 やや時間があって着信音とともに承認の返事が来た。
 よし、第一関門突破だと気合いが入った。私は相手が年頃の少女、それなりの容姿であることを祈ってマウスを動かしてテレビ電話のボタンをクリックした。
 ウィンドウが開いて、送信中のマークが動いていた。
 思わず画面を凝視した。

 リアルタイムの映像に切り替わった画面には、赤いストレートの髪にヘアバンドが良く似合う、あどけない顔立ちをした色白の女の子が映っていた。正統派美少女という言葉がピッタリの、男の理想そのままの女の子だった。これは夢かドッキリなんじゃないかと疑った。前髪が穏やかな形の眉を隠していた。小動物を思わせる愛くるしいつぶらな瞳に細い鼻すじ、ピンク色の唇が几帳面に閉じ合わさっていた。ややおとなしめの印象だが、吸い込まれそうな瞳の奥に意思の強さも感じさせる。これまで私がチャットをしてきたどの少女たちともちがう特別な雰囲気があった。頭にヘッドセットを装着していて、どことなく緊張している感じだった。
 ディスプレイの向こうでにっこりと微笑む。私は挨拶さえ忘れていた。

「はじめまして。……あの?? 私の顔になにかついてますか?」
 スピーカーから届いた声も容姿どおりの繊細な声だった。たぶんこの子は叫んだり大声を出したりしたことがないんだろうなと勝手に想像していた。
「そうじゃなくて……ものすごい美人だから驚いちゃって」
 本心でそう言った。年甲斐もなく出会ったばかりの少女の映像に前のめりになっていた。そうして遅れて、これはとんでもない美少女にぶち当たったぞという高揚感がやってきた。そこにいるだけで周囲の視線を集めてしまう特別な少女。すかさず録画機能のボタンをクリックしていた。
「……」
 彼女はちょっと照れたようにはにかんでいた。はにかむと口もとに白い歯がわずかにこぼれていた。あまりパソコンとかに詳しくなさそうに見えた。きっとネットもそれほど使わないだろう。
 襟がフリルになったお嬢様っぽい白のブラウスを着ていた。
 おそらく自分の部屋で机に向かってスカイプに接続している。彼女の背後には淡いピンク色のベッドにカーテンがあって、クッションの横に目つきの悪いコアラのぬいぐるみが置かれていた。窓のところに植木鉢の花が咲いていた。清潔感のある、女の子の部屋というイメージどおりの部屋だった。
「しおりちゃん?」
「はい?」
「ごめんね。こんなおじさんが話し相手で」
「いえ、そんなことないですよ」
「繋がってみてがっかりしたでしょ。もっと若い、同年代ぐらいの話し相手がほしかったんじゃないの」
 彼女はちょっと困った感じで、小さく首を左右に振っていた。彼女が首を振ると、さらさらの赤い髪も肩の上で気持ち良さそうに揺れていた。甘いシャンプーの香りが画面を飛び越えてここまでしそうな雰囲気だった。
「……お話できる人なら誰でもよかったし」
「優しいんだね。ウソでもそういってもらえると嬉しいよ。あのさ、しおりってどう書くのかな、漢字で。本とかの『栞』? それとも詩の『詩』に織物の『織』のほうの詩織?」
「詩の『詩』に織物の『織』のほうの詩織です」
「そっちか……イメージにぴったりの名前だね」
「ありがとうございます」
「ということは本名なんだ」
「あっ……」
 そこで詩織ちゃんは言葉を詰まらせて驚いた顔をしていた。
「まずかった?」
「いえ……うまいなって感心して」
「名前を聞き出すのが?」
 画面でわずかにうなずいていた。
「『Shiori』って登録してるでしょ」
「あ、そうですね」
 彼女は控えめに口もとだけで笑っていた。でも、どこを見ていいのかわからないといった感じで視線を動かしていて、声もどことなく硬かった。
「緊張してる?」
「……ちょっと」
「スカイプはじめてなの? プロフィールに初心者って書いてあったけどさ」
「さっき接続できたばかりです。友達に面白いからやってみなさいっていわれて。パソコンもあまり詳しくなくて、繋がったらすぐにチャットの申し込みがきてびっくりしました。ほんとすごいですね」
「だよね。世界中に繋がってるからね。いまもチャットの申し込みが来てると思うけど、そういうのは全部着信拒否にしちゃえばいいからね。わかった?」
「着信拒否って、このタブかな。たくさん覚えることがあって難しくて」
「あー、私を着信拒否リストに入れちゃだめだよ」
「はい」
「そのやってみろって言ってくれたのは男友達?」
「ちがいます。女の子です」
「ほんとう? 詩織ちゃん可愛いからモテるんじゃないの」
「そんなことないですよ」
「ウソウソ。おじさんが詩織ちゃんと同じ学校なら速攻で告白してるけどな。これだけ美人なら学校のマドンナでしょ」
 詩織ちゃんがはじめてクスクスと笑ってくれた。悪くない印象を与えられた手ごたえがあった。スカイプでも初対面の印象が重要なのは言うまでもない。
「でも、ほんとうにモテないんですよ」
「ラブレターとかもらったことあるでしょ。あ、最近はメールなのかな」
「そうですね……手紙は」
「ところで上の名前はなんていうの?」
「……」
「ごめん。言いたくなかったら言わなくていいからね」
「藤崎です」
「藤崎詩織ちゃん?」
 私は確認するように尋ねると、画面の彼女ははにかみながら小さくうなずいていた。私は、よし、いい感じだと思っていた。
「何歳なの?」
「何歳に見えますか?」
「おー、そうくるか。詩織ちゃんもわかってきたねえ。ちなみにおじさんは何歳ぐらいだと思う?」
「……40…ぐらい?」
「残念。もうちょっと上かな。いまわざと若くいってくれたでしょ」
「ううん。ほんとうに40ぐらいに見えますよ」
「大人をおだてるコツを知ってるなー。おじさん嬉しくて涙が出てくるよ。たぶん詩織ちゃんのお父さんより年上だよ」
「そうなんだ……そんなふうに見えないですね」
「パソコン映りがいいからね。若く見えるウェブカメラで撮影してるからかな」
 詩織ちゃんは笑みがこぼれるように笑ってくれた。とても自然な笑顔だった。
「詩織ちゃんは18歳?」
「17歳です」
「おしい! 17歳か。高校2年生? 3年生になるのかな?」
「2年生です」
「えー、2年生か。大人っぽいから女子大生かと思ったよ。よく間違えられるんじゃないの、大学生と」
「ときどき、かな」
「ほら、やっぱり。おじさんの目に狂いはない」
「うふふっ。そうですね」
「あっ、信じてない? ためしにちょっと片手で髪を後ろにかきあげてみてくれる? ドラマで女優がするみたいにさ。ヘッドセットに髪がひっかからないように気をつけてね」
「こうですか?」
 彼女は素直に私のお願いを聞いてくれた。彼女が右手を使ってかきあげると、キューティクルの赤い髪がさらさらと流れて落ちていた。すごく可憐な仕草だった。私は吸い込まれるように見とれていた。
「やっぱりすごく大人っぽい。まるで本物の女優さんみたいだったよ」
「もー、あんまり褒めないでください」
「いやいや、ほんとにほんとに。雰囲気があるよ。つぎは後ろに立ってみてくれるかな?」
 詩織ちゃんは意味がわからないといった顔をしていた。
「ほら、いまだとカメラとの位置関係で肩より上しか映ってないでしょ。椅子の後ろのほうに立って、詩織ちゃんの全身が見えるようにしてほしいんだけどさ」
「べつにいいですけど」
 画面がわずかに揺れた。椅子から立ち上がる詩織ちゃんが映って、そのまま歩いて後ろに下がる。ベッドの前に両手を背中にして立って、全身が映った。ちょっとすました顔でウェブカメラを見つめていた。
 彼女は黒のタイトスカートを身に着けていた。そこからすらりとした色の白い美脚が伸びて、三つ折りの白ソックスをはいていた。ほどよく発達した太腿が女子高生の色気を漂わせて、すごく上品な立ちポーズだった。それだけで育ちの良さと性格の真面目さが画面を通して伝わってきた。
「すごく可愛い格好だね。ブラウスもスカートもよく似合ってるよ」
 私が素直に褒めると、彼女は顔を赤くして照れていた。照れくさそうに肩にかかった髪を指先でいじる姿も最高にいじらしかった。高校生なのにまるで女子中学生みたいな反応に私は、この子はたぶん処女だなという確信が沸いてきていた。興味本位でスカイプに接続してきたパターンだろうと。
「ヘアバンドが真面目な女子高生っていう感じがするね。個人的にポイント高いよ。いつもしてるの?」
「はい。もうしていないと落ち着かないぐらいで」
「へー。今日はお父さんとお母さんはおうちにいないの? そこはおうちだよね?」
「います。下の階に」
「あー、なるほど。いるよね、こんな時間だもん」
 べつに問題はないのに彼女の両親が家にいると聞いただけでがっかりとしてしまった。
「そのままそこでクルッて回ってくれる?」
「あっ、はい。回るんですね」
 私の指示通りに回ると、赤い髪がふわりと広がって円を描いていた。まるでバレリーナのようなターンだった。可憐で小気味よく、無駄がない。見ているだけでドキドキしてくる。
「あ、ストップ! そのまま。そこで止まっててくれるかな」
「??」
 私はもう1回ターンしようとした彼女を途中で呼び止めて、ウェブカメラに背中を向ける格好をしてもらった。画面には、部屋の中央で背中を向けている藤崎詩織ちゃんが一人で映っていた。とても無防備な後姿だった。
 赤い髪が上品なブラウスの背中に垂れかかり、気をつけの姿勢で両手は体の横でまっすぐにしていた。肩から背中にかけてのおとなしめのラインが印象的だった。ウエストは細すぎず、黒のタイトスカートがみっちりと窮屈そうに盛り上がっていた。その思った以上に発達したヒップラインを眺めて、あどけない顔をしていても詩織ちゃんも女子高生なんだなと萌えていた。
「詩織ちゃんはなにかスポーツしてるの?」
「……」
 画面で背中を向けている彼女に質問した。ヘッドセットで聞こえているはずなのにわずかに彼女の反応はなかった。おそらく私がどんな目で彼女の後姿を眺めているのか想像しているのだろうと私は思った。
「いちおう……テニス部です」と、背中を向けたまま答えてくれた。
「そっか。それでスタイルがいいんだね。練習きびしい?」
「そんなには……」
「詩織ちゃんのテニスルック見ていたいな、おじさん。すごくキュートなんだろうな」
「普通だと思いますよ」
「またまた。可愛い女の子のテニスウェア姿は最高だよ。そうだ。足もとに落ちたボールを拾う格好をしてみてよ。膝を曲げずにさ」
「膝を曲げずにですか?」
「そうそう。そのまま後ろを向いたままね。ゆっくりだよ、ゆっくり。コートでいつもしてるでしょ」
 しばらく沈黙があって、画面の中で背中を向けたままの詩織ちゃんが静かに体を前に倒しはじめた。膝を伸ばしたまま、ゆっくりと腰を曲げる。それと同時にタイトスカートの後ろがめくれ上がって、むっちりとしたお尻のギリギリのラインと純白の三角形がチラリと見えた。右手を伸ばして、足もとのボールを拾うポーズをする。瞬間、彼女のショーツの真ん中が薄っすらと濡れているのが見えた気がした。
(!? 詩織ちゃん、見られてもう濡らしてたのか?? こんな真面目そうな子が信じられん!!)
 向き直った彼女は顔をほんのりと赤く染めて、バツが悪そうに視線を床に落としていた。肩にかかった髪を何度も後ろに払う。その動揺した様子から彼女もパンチラを見られたことがわかっているんだと思った。私が「すごく色っぽかったよ。ありがとう」と話しかけても、画面の中で唇を真一文字にしてうつむいていた。タイトスカートがめくれたままになっていたので、彼女の両脚はかなりきわどい部分まで見えたままだった。見ていてムラムラとしてくる女の子の姿だった。

「詩織ちゃんって彼氏いないの? さっきモテないって謙遜してたけどウソだよねえ。気になる男子ぐらいはいるんじゃないの?」
「彼氏はいません」
「彼氏は? こんなに可愛いのに? 奇跡だな。美人すぎて学校の男子は腰が引けてるのかな。気になっている男の子は?」
「……」
「その顔はいるんだ」
 私が突き詰めると図星であることを示すように彼女はさらにうつむいた。手を後ろにして、幼い女の子が拗ねるように唇を噛みこんでいた。
「顔をあげてよ。照れた姿も可愛いね」
 ちょっと悔しそうに顔をあげた彼女の視線は、ウェブカメラを見ていなかった。前髪のかかった眉を斜めに下げて唇を気難しそうに曲げていた。詩織ちゃんみたいな女の子でもそんな顔をするんだととても新鮮だった。まるで私まで高校生に戻ったような錯覚がしていた。
「クラスの男子? それともテニス部の先輩とかかな」
「しらない」
「ハハハ。そうだよね、さすがにいえないよね」
「ところで学校ってどこ?」
「それは……」
「あー、心配しなくてもどうせネットだし問題ないよ。もしかしたら詩織ちゃんの恋愛相談とかにのってあげられるかもだしさ」
「相談ですか」
「うん。詩織ちゃんって異性のこととかあんまりわかってないみたいだからさ。いいアドバイスをしてくれる大人の話し相手がいてもいいんじゃない」
 詩織ちゃんはすこしのあいだ黙って考えていた。
「きらめき高校です」と静かな声で教えてくれた。

「きらめき高校!? 可愛い子が多いので有名な、きらめき高校?」
 思わぬ偶然に私は声が裏返りそうになった。
「知ってるんですか?」
「うん。ここから電車を一本乗っていったところだよ。校庭に伝説の樹とかいう大きな樹があるでしょ。藤崎詩織ちゃんって、あの藤崎詩織ちゃん?? 優等生の??」
 画面の向こうで、詩織ちゃんがちょっとだけしまったという顔をしていた。たぶん私がそんな近くに住んでいるとは夢にも思わなかったのだろう。広大なネットで近くに住んでいる者同士が出会う確率はそれほど高くない。
 きらめき高校は美少女が多いことで有名な学校だ。とくに私のようないかがわしい大人に人気がある学校ともいえる。その中で並み居る美少女を押しのけて、ずば抜けたビジュアルと抜群のスタイルで絶大な人気を誇るのが藤崎詩織ちゃんだった。きらめき高校のスーパーアイドルと呼ばれて、絶世の美少女とまで噂されている。私も何回も耳に挟んだことがあった。どうりで人気アイドル顔負けのルックスだと一人で納得していた。
「まさか噂の詩織ちゃんとスカイプで知り合えるとは、おじさん感動だな」
「あの……」
「あー、天地神明に誓って誰にもいわないから安心して。それに詩織ちゃんとスカイプで話したっていっても誰も信じてくれないよ」
 私は急いで彼女を安心させる言葉を並べた。ここで回線を切断されたらもともこうもない。せっかく優等生の詩織ちゃんが生まれて初めてのライブチャットでエロイプにハマりつつあるのにチャンスを見す見す逃すことになる。スカイプだけが唯一の接点だった。普通に生活をしていたら口を聞く機会などありえない。
 詩織ちゃんは体の前で手を重ねて、小さくため息をついていた。たぶん途中でチャットを切り上げていいものか、それともこのままスカイプを続けていいのか迷っていた。私はその悩ましい清純な表情と、いまにも下着の見えそうで見えないタイトスカートから伸びた女子高生の生太腿をじっくりと交互に眺めていた。