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スピリットサージ
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2014 / 06 / 27
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 経過報告5 ―― 7月6日

 男子に人気のある女子は同姓に嫌われてそうなイメージがあるけど詩織はそんなことない。言いにくいことでもはっきりと男子に意見するので女子グループのリーダー的存在でもある。そのせいで休憩時間になると詩織の席のまわりにはたくさんの女子が集まっておしゃべりをする。たまに気持ちのいい風の吹く窓際だったりする。
 女子はほんとおしゃべりが大好きだ。暇さえあれば髪をいじるかしゃべってばかりいる。美味しいクレープ屋を見つけたとか、可愛い洋服を買ったとか、帰りにプリクラを撮りに行こうとか。周囲には女の子のいい匂いが漂う。詩織もそうだけど、どうして女子ってあんないい匂いをさせるのだろう? みんな夏服なので背中にブラジャーの線が見えたり、お腹が見えたり、脇のところからブラジャーの横が見えたりする。基本的にセーラー服の下にスリップなんかは着たりしない。そうそう、うちの女子の制服は水色のセーラー服タイプなんだけど、スカーフリボンに特徴があって大きくて黄色い。これがまた綺麗に結ぶのがすごくやっかいだったりする。斜めに捩れたり形がいびつだったりするとせっかくの可愛い制服が台無しになる。おかげで朝は遅刻しそうになる。鏡の前に立って何回も結びなおさないといけないからだ。男だったころは詰襟だったしシャツを着てズボンさえ履けば家を出るのに1分もかからなかった。あと前にも書いたけど髪のブラッシングだろ、それに詩織といえばヘアバンドがある。今日なんかつけるのを忘れて登校しそうになった。いっつも同じのに見えて黄色や白や水色や詩織はたくさんのヘアバンドを集めていた。もうここまできたら立派な趣味だ。下着は白か淡いピンクばっかりのくせに。靴下は短い白のやつだ。それを途中で一回だけ折り曲げて履く。靴は学校指定のこげ茶色のローファーで。 って、なにを書いてるんだろ。話が途中で脱線してしまった。とにかく俺も俺なりに詩織の評判を傷つけないように頑張っているわけだ。でないと詩織は俺にいちいち文句をつけてくる。他のみんなには「うふふ」とかアイドルスマイルしてるくせにさ、チェッ。なぜか俺にはやたらと厳しい。
 話を戻す。報告書をちゃんと書かないと今度は紐緒さんに怒られてしまう。なんか俺って怒られてばっかりだな。
 で、すべてがたわいのない話ばかりかというとそうでない。隣のA子がついに最後までしちゃったとか、また痴漢にあったとか、男子の○○がなんかやらしー目でこっちを見てただの。悪口になると男子はこっぴどく叩かれる。怖い怖い。××先輩かっこいいねー。△△に誘われちゃった、とかその手の噂にもことを欠かない。俺は耳をかっぽじって聞き耳を立てている。
 B美が「あー、暑いー」って言って、スカートをパタパタさせて中に風を送ったのにはびびった。教室に男子がいるのに。ねずみ色の下着がばっちり見えた。さすが女子高生だけあって大人っぽいっていうか生々しい。「詩織~、なにキョドってんのよー」ってみんなに笑われた。そりゃー男ならギョッとするって、ふつう。

 休憩時間に好雄が浮かない顔をしてたので声をかけた。
「どうしたんだよー、好雄。さえない顔して」って言いかけたのを「どうしたの、好雄くん。浮かない顔をして」って言い直した。それぐらいは俺だって気をつける。好雄といえば私設ファンクラブまで開いたほどの詩織の大ファンだ。女子のことならたいてい知っている。俺も女の子の電話番号とか教えてもらっていた。
「あいつ最近おかしくない?」
 目を追うとその場所に俺がいた。他のクラスメイトは楽しそうに雑談をしたり騒いだりしてたのに一人だけ教科書を開いて黙々と勉強していた。まるで何か雑念を振り払おうと勉強に集中しているみたいだった。
「ね、おかしいでしょ」
「そうかなあ。普通じゃない」
「うそー。あいつが勉強なんて明日は雪だよ。話しかけてもノリ悪いしさ。人がせっかくファイナルクエスト7が手に入ったから遊びにこいよって誘ってやったのにゲームなんか興味ないってほざきやがって」
「うおおおー!!」
 興奮のあまりつい大声を出してしまった。好雄がビクッとしていた。クラスのみんながこっちを見ていた。
 コホンと咳払いをした。「好雄くん。ファイナルクエスト7買ったの?」と落ち着いた声で質問した。
「う、うん、いちおう……」
「人気で買うの大変だったでしょ」
「ゲームショップに知り合いがいてさ、それで」
「いいなー。あれって独自のジョブシステムが斬新なんだよね。あとウェポンスキルでしょ」
「詩織ちゃん、ファイナルクエスト知ってるの? ゲームとか興味なかったんじゃなかったっけ?」
「そう思ってたんだけどー、最近はゲームも悪くないかなって」
「そうなの。珍しいね。……良かったらうちにやりにくる?」
「どうしよう。おじゃまじゃないかしら」
 好雄、息をするのも忘れたみたいな顔をしてた。
「聞き間違えじゃないよね? 俺のうちだよ??」
「ええ、好雄くんさえ良ければ」
「ぜひきてよ。今日は優美、じゃない、妹も部活だし!」
 というわけで好雄の家に遊びに行くことになった。


「おじゃまします」と、玄関で靴を脱いでると好雄が猛ダッシュで階段を上がりはじめた。「ちょっとそこで待ってて。すぐに部屋を片付けるから」って焦った声で。はは~ん、詩織が来たんでヤバイブツを隠すつもりだな、と直感した。俺は好雄が「いまはまずい。まずいって詩織ちゃん」って血相を変えて止めるのを無視してドアを開けて部屋に入った。
 持っていた鞄を床に落として、「なによこれっ!」ってわざとらしい驚きの声を出した。好雄の部屋の壁には所狭しと大きく引き伸ばした詩織の写真が貼られていた。もちろん俺は知ってたけど。制服姿で両手に鞄を持って登校している詩織の写真、体操服姿で片足を高く掲げて創作ダンスをしている詩織の写真、頭にはちまきをして他の女子と一緒に体育祭で応援している写真、真剣な表情で教室で授業を受けている写真、白いテニスルックでラケットを手に部活の練習をしている写真、スクール水着姿でプールから上がった直後の写真(太陽の光りを浴びて乳首や体のラインが浮き上がっている)。学校の裏庭にある花壇に水をやるためにしゃがんだ詩織のパンチラショットまである。スカートの奥に純白の下着がバッチリ写っている。全部詩織を隠し撮りした写真だ。いつ来ても好雄の部屋は濃いなーっと思ってしまう。
「好雄くんって見かけによらず不潔なのね」って、声をツンケンさせて本物の詩織っぽく怒った顔をした。
 そしたら好雄のやつ、大慌てで弁解をはじめた。
「誤解だよ、詩織ちゃん」
「五階も六階もないわ」
「聞いてよ、俺はただ純粋に可愛い女の子の写真が撮りたくて」
「ひどい! 好雄くんは可愛かったら誰でもいいの。私の容姿だけが目当てなの」
「そうじゃなくて。俺は詩織ちゃんのこと本当に可愛いと思ってるから」
 好雄、しょんぼりうな垂れて本気でしょげてやんの。内心ゲラゲラで、ふきだしそうになった。マジおかしかった。

「他にも隠してるんでしょ」
「これで全部だよ」
「ちゃんと私の目を見て。これはなによ!」
 ズカズカ歩いて机の抽斗を開けた。そこには好雄のお宝写真が隠されている。中から部活を終えてシャワー室で気持ち良さそうにシャワーを浴びている詩織の写真(湯気であんまり写りは良くない)が出てきた。詩織だけじゃない。虹野さん(更衣室で水着に着替えようとしている)や古式さんや鏡さんや清川さん美樹原さん、緑色の髪を頭の両サイドで大きな輪っかにした髪型の女子の裸の写真もあった。きらめき高校で人気のある女子生徒ほとんどの裸の写真だ。
「最低! 女の子の裸を盗撮するなんて立派な犯罪よ!」
「ごめん。これは俺じゃなくて他のやつが」
「見そこなったわ、人のせいにするの! 全部好雄くんが隠しカメラを仕掛けたんでしょ! もう信じられない。どうして人のことを勝手に隠し撮りしたりするの」
 これは本当だ。好雄のやつ学校のいたるところに隠しカメラを仕掛けて詩織や虹野さんたちを盗撮してる。いい写真が撮れると自慢して俺に見せてくれる。好雄をからかうとすげー面白れえ。すっかり意気消沈してた。こんなことめったにないのでもっとからかってやれって思った。
「私の写真見ていやらしいこと考えたりしてたんでしょ」
「し、してないよ」
「うそ! それじゃこれでも平気?」
 好雄の前に立って、制服のスカートを両手でゆっくりたくしあげた。純白のパンチラショットをサービスしてやった。
「!? なにをしてるの、詩織ちゃん!」
 好雄のやつ驚きすぎて声が裏返っていた。そのくせしっかり食い入るように見てやがった。
「ほら、やっぱり。私のことやらしい目で見てる」
「ち、ちがうよ」
 好雄が大きな唾を飲み込む音が俺まで聞こえた。俺は笑いをこらえるのに大変だった。
「それならこれでどう?」
 パンティーに指を引っかけて割れ目が見えるか見えないかの位置までずらし、潤んだ瞳で見つめる。好雄の大好きな女子高生モノのエロ雑誌でよくある立ちポーズをしてやった。
「ハアハア……どうしたんだよ、詩織ちゃん……」
「お願い。私の体をいやらしい目で見ないで、好雄くん」
「み、見るわけないよ。だって、詩織ちゃんは俺たちきらめき高校男子全員の憧れのアイドルだよ」
 好雄のやつ、目を血走らせて大きくなったズボンの前を両手で隠してた。そこで我慢の限界だった。笑いがこみあげてきて大爆笑してしまった。
「もうだめだ、マジウケル。頼むから俺を笑い死させるのだけはやめてくれっ、マジで腹がいてええっっ」
 腹を抱えてベッドに転げた。スカートがめくれるのも気にせず足をバタバタさせて笑い続けた。好雄のやつ目が点になってた。そのマヌケ顔も最高だった。こうして書いていてもまたふきだしそうになる。
「俺だよ、俺」
 笑いすぎて出た目じりの涙を拭きながら言った。
「????」
「だからー、俺だって」
「なに言ってるの、詩織ちゃん?? 頭でもぶつけたとか??」
「もー、恐竜並みに鈍いやつだなー。この前、ハゲの車を二人でパンクさせただろ」
「?? どうしてそのことを?? あいつと俺しか知らないはずなのに」
「だからさー、いま目の前にいるのがその俺なんだって」
 右手の親指でオレオレと自分を突き刺してた。
「またまた。俺をからかおうとして。あいつに聞いたんだろ?」
「ちがうって。だいたい本物の詩織がこんなしゃべり方するか? 自分を俺なんて言ったりするか?」
「そう言われればそうだけど」
「いいか、心して聞け。紐緒さんの実験で詩織と体が入れかわっちまったんだよ」
「紐緒さんの?」
 そっから好雄を納得させるのに夕方まで時間がかかった。現実が受け入れられないらしく好雄のやつまったく信じようとしなかった。俺もそうだったから無理はないけどさ。紐緒さんに誰にも話すなって言われてたけど好雄ならいいんじゃないかと思う。友人だし、いちおう口は堅いかな。他にしゃべったら写真のことを詩織にバラすって脅しといた。まずこれでバレることはない。あとは紐緒さんに連絡しないとだけど、まあこの報告書を読めばわかるか。