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2016 / 09 / 16
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 河野貴明が昼過ぎに向坂家を訪ねると、幼なじみで親友の雄二が一人でカップラーメンをすすっていた。
「あれ、タマ姉は?」
「姉貴ならバイトだぜ」
 向坂環は雄二の実の姉で、貴明にとって一つ年上の高校3年になる。長身で普段からスカートよりジーンズを好む行動的な性格をしている。背中まで伸ばした赤いツインテールにネコ科の動物を思わせる瞳と大人びた顔立ち、この春に貴明達の通う高校に転校してきた。二人にとっては幼い時から頭の上がらないリーダー的存在でもある。
「そっか。勉強を教えてもらおうかと思ったのにさ」
「そいつは残念だったな」
「1週間かな、タマ姉がメイドカフェでバイトをはじめて」
 夏休みに入る直前、貴明と雄二と環とこのみの4人は近くの公園で野球をしていた。
 雄二が投げた速球を環が豪快なスイングでホームランを打って、たまたま通りかかった高級外車を直撃した。その修理代を稼ぐために時給が良いメイドカフェで働くことになったのだ。
「自分で働いたお金で返すってところがタマ姉らしいよね」
「そうかあ」
「雄二は少しは責任感じないの?」
「かっ飛ばしたのは姉貴だぜ。それにあーいう浮き世離れしたタイプは世間の荒波に揉まれたほうが本人のためだろ。この間もツイッターするのは不良だけだって言ってたしな」
「それだけ九条院での寮生活が厳しかったんだよ」
「よーし。そんなに言うならいっちょ偵察に行ってみるか」
「いまから? タマ姉に怒られないかな。いきなり押しかけたりして」
「見ものだぜぇ、姉貴がメイドたーよー」
「雄二はタマ姉のことになると意地悪になるね」
「そういう貴明だってほんとは興味あるんだろ」
「あるようなないような」
「うだうだ言ってないで行くぜ」

 貴明と雄二は、電車に乗ってメイドカフェがひしめくJK通りの店舗に向かった。
「ここだな」
「ハートx2メイドカフェ?」
「最近できたメイドカフェみたいだな」
「へぇー、さすが詳しいね」
「まーな。メイドのことなら任せろよ」
「なんだろう。ドキドキしてきたよ」
「あいかわらずだなー、貴明は。女だって思うな、メイドだと思え」
「う、うん」
 雄二に背中を押されるようにして、貴明は雑居ビルの2階にあるドアを慎重に開けた。
「おかえりなさいませ、ご主人さま」
「うわあっ」
「落ち着け、貴明。まだ入り口だ、惑わされるな」
 貴明はまともに目を合わせることができない。カチューシャに白と黒のメイド服の衣装を着た同年代の少女に気圧されていた。眼鏡をかけて髪は三つ編みで、メルヘンチックなエプロンドレスは胸元を強調するようなデザインをしている。フリフリのスカートはちょっと屈んだだけで中が見えそうな短さだ。小さいリボンが可愛らしいニーソを履いていた。
「は、はじめまして」
「なに照れてるんだよ」
「なんてしゃべればいいのかな」
「ただのカフェだと思うなよ。ここは戦場だと思え」
 雄二の説明に貴明は身構える。
「ご主人さま、はじめてのご帰宅ですか?」
「ご帰宅??」
「来店だ、来店。貴明、ビシッと気合い入れろ」
「ご、ご帰宅で……」
「席はこちらです。ご主人さま」
 緊張気味の貴明と雄二はメイドに案内されて角のテーブルに着席した。
 貴明は『あいちゅティー』と『ご主人さまランチ』を、雄二は『つんでれパフェ』と『まぜまぜナポリたん』を注文した。

「すごい賑わってるね。満員だよ」
 テーブルはどこも男性客で埋まっていた。オタクっぽい男性を中心に、サラリーマン・大学生風・おじさん。
 その間をメイド達が忙しそうに接客をしている。みな現役の女子高生だ。
「みんな若いね」
「夏休みだしな」
「服装がメイド以外はわりと普通なんだね。文化祭の模擬店みたいかも」
「バカヤロウ! 選ばれし者のみが足を踏み入れることのできる空気を感じないのか」
「雄二、鼻息が荒いよ」
「これが興奮せずにいられるかってんだ。右を見ても左を見てもメイドだぜ」
 貴明は苦笑する。
「それにしてもレベルたけぇなあ。後でさっきのメイドさんとチェキ撮ろうっと」
「そんなサービスがあるんだ」
「最近だとミニステージでメイドさんがライブをするメイドカフェもあるんだぜ」
「想像つかないや」
「考えるな、感じろ、貴明」
「どっかで聞いたことがあるセリフだね」
「ものすごいスピードで進化してるのはたしかだな」
「スカートが見えそうだよ」
「そこが売りなんだろう。まったくいい趣味してるぜ、ここの店長。いまはJKの時代だからな。
 おい、噂をすればなんとやらだぜ」
 雄二があごを動かした先では、メイド姿になった環が銀のトレイにセットメニューを載せて運んでいた。
「ほんとにタマ姉もメイドなんだ」
 メイドの中で環が一番目立っているなと、貴明は素直に思った。
 環を追うように他の客の視線も動いている。
「とりあえず店のお荷物にはなってないみたいだな」
「聞かれたら殺されるよ、雄二」
「平気平気。客はご主人さまだからな」
「そっか」
 余裕綽々の雄二に貴明は思わず感心した。

「ご主人さま、お待たせしました。みどりのしゅわしゅわとぴぴよぴよぴよ♪ひよこさんライスのセットです」
 環は明るい声と笑顔でメロンソーダとオムライスを置いてお辞儀をした。
 フリルスカートの裾が持ち上がり、白地に青のストライプ模様をした逆三角形がチラリとのぞいた。
 すぐに思い出したように片手を後ろにしてトレイで隠す、環。
「やだなぁ。また見られたみたい」
 環が振り向くと、いつも背後の客が不自然に視線を逸らせるのだ。
「こ、こっちなんだな、たまりん」
「はい?」
「ず、ずっと待ってたんだな」
 バンダナにアニメキャラのTシャツを着た常連客が言葉の端々を噛みながら話しかけた。
 手を握ろうとするが、環はそれを笑顔でかわした。
「ご指名ありがとうございます。ご主人さま」
「き、今日もすごく可愛いんだな。まるで”りなりな”なんだな」
「りなりな? ……緒方理奈のことかしら?? たしか雄二が応援しているアイドルがそんな名前だったような」
「ボ、ボク、たまりん目当てで毎日通ってるんだな」
「うふふっ、ありがとうございます。ご主人さま」
 控え目なメイドスマイルで応対をする。
 最近まで全寮制の厳しい学校に通っていたため、環は接客の基礎が身についている。

「おい、見たかよ。いまの姉貴の顔」と、雄二が驚いた顔をする。
「ちゃんと働いて立派だなぁ、タマ姉」
「オタク相手に姉貴もよくやるねぇ」
「常連さんかな? 親しそうに話しかけてるみたいだけど」
「メイドカフェはいかに常連客を掴むかがミソだからな。それによって時給が変わったりするんだぞ」
「へぇー、そうなんだ」
「実際、メイドにランキングあったりするからな」
「タマ姉ならすぐにナンバー1になれそうだね」
「可哀想に。容姿からはあの破壊的な本性は見えないからなぁ。客もある意味詐欺の被害者だぜ」
 貴明と雄二が低い声で話していると環と目が合った。
 あっ! という顔をした環。気まずそうに二人のテーブルへやって来る。
 メイド服の腰に片手を当てて、やれやれといった様子で2人を見下ろした。
「ちょっとあんた達来てたの」
「よう、姉貴。うまく騙せてるみたいじゃん」
「また殺されたいの、雄二」
「その格好じゃ迫力不足だぜ、姉貴。それにここだと周りに客がいるだろ。それでもいいのか」
「もうっ、そういうところは悪知恵が回るんだから」
「お疲れさま、タマ姉」
「タカ坊もいつから見てたのよ」
「ついさっきだよ。すごく似合ってるね、タマ姉のメイド服。まるで本物みたいだよ」
「ありがとう、タカ坊。そういってもらえるとお世辞でも嬉しいわ」
「ちょっとスカートが短すぎない?」
「あら、もしかしてここが気になる?」
 悪戯っぽくウィンクをした環は、軽くスカートの端を摘まんでいつものように貴明をからかう。
 あと少しでパンティーが見えそうなギリギリのラインだ。むっちりとした絶対領域が目を引く。
「タマ姉、からかわないでよ」
「タカ坊も男ねえ。心配しなくてもタマお姉ちゃんはタカ坊だけの物よ」
「2人で雰囲気作ってんじゃねえぞ、姉貴」
「雄二、まだいたんだ」
「カーー、それが実の弟に対する態度かよ。しっかし、我が姉貴ながらエロエロだぜ。もうちっとめくってくれれば最高なのによぉ」
「くだらないこと言ってないであんたもバイトぐらいしなさいよ」
「ヘイヘイ」
「あ、そうだタカ坊」
「なあにタマ姉?」
「ここは私のおごりだから好きな物を注文していいわよ」
「なんだか悪いよ。タマ姉のバイトしてる姿を見に来ただけなのに」
「いいのいいの。雄二はちゃんと自分で払うのよ」
「ぐはぁ、ひでえ……冷てぇよ姉貴」

 3人で話していると背の小さいメイドが来た。
「たまり~ん。5番テーブルのご主人さまが呼んでるよ~」
「あ、ごめん。そういうことだから二人とも」
「忙しいのにごめんね、タマ姉」
「私も二人の顔を見れて疲れが吹き飛んだわ」
 環は小さく手を振って、貴明達のテーブルを離れた。
 猫耳ツインテールの赤い髪を揺らして、先ほど注文をした男性客のテーブルに戻った。
 貴明達と話していた時とは打って変わって「お待たせしました、ご主人さま」と愛嬌を振りまく。
「た、たまりん、ここにす、座るんだな。ボ、ボクにオムライスを食べさせてくれる約束なんだな」
「わかりました。ご主人さま」
 環がスカートを裾を押えながら隣に座ると、男が近寄ってきた。
 本来であれば客の隣にメイドが座るような接客は風営法で禁止されているが、昨今の過当競争もあり、環がバイトをしているメイドカフェでは客とメイドが並んで談笑するのを黙認している。そのぶん他のメイドカフェより時給がかなり高いのだ。客もわかっているのでそういうメイドカフェに流れてくる。
「近いなぁ……もう」
「な、なにかいったんだな」
「ううん。気のせいです。ご主人さま。はい、あ~~ん」
「そ、その前にフゥフゥしてほしいんだな。熱いのは苦手なんだな」
「はい?」
「あ、あとケチャップで”Love ご主人さま”も忘れないでほしいんだな」
「そうだ。忘れてた」
 環はケチャップでハートマークと『Love ご主人さま』の文字をオムライスに描いた。
 スプーンに乗せて息でフゥフゥした。
「はい、あーーーん」
「うああーーーーん」
「お口に合いますか、ご主人さま?」
「う、うまいんだな。ケ、ケチャップがたっぷりで、たまりんの作ってくれたオムライスは口の中でとろけるんだな」
「ご主人さまへの愛情をたーーっぷり込めて作りました」
 環はメイドらしい口調でご機嫌を取る。
 テーブルの下では、ニーソの淵をなぞるように男の手が絶対領域に伸びてきていた。
 肉付きの良い環の太ももをなでる。
「えっ???」
「た、たまりんの脚はすべすべなんだな」
「ちょ、ちょっと……手が……んっ」
「ハアハア、ご、ご主人さまが抜けてるんだな」
「そんなこといわれても……触るの……禁止なのに」
「ハアハア、ま、まるでフィギュアみたいな脚なんだな」
「んっ……だからダメだって……いいかげんにしないと――」
 絶対領域を触っていた手がフリルスカートの内側に伸びてきた。
 環は慌てて膝と膝を閉じた。もう少しでスプーンを落としかけた。
(どうしよう……相手はお客さんだし、怒るとお店に迷惑がかかるわよね)
 普段の環であれば必殺のアイアンクローで軽く捻るところだがバイトの立場だとそうもいかない。
 とくに相手は店に大金を落としてくれる常連客だ。そんなことをすれば後で店長に叱られる。
「ハアハア、脚を開いてほしいんだな」
「そんなことできるわけっ」
「ダ、ダメなんだな。ボ、ボクはスーパーブラックカードなんだな」
 男が取り出したメンバーズカードを見て環は言葉に詰まる。
 店で3人の常連客しか持ってないというプレミアムカードだ。
「こ、これを持ってるとメイドはなんでも言うことを聞かないとダメなんだな」
「え、あ……で、でも……」
「ぎょ、行儀の悪いメイドは、て、店長に言いつけるんだな」
「わかりました……」
 環は悔しさに唇を噛みしめる。
 他の客にわからないようにテーブルの下で両膝を左右に開いた。
「メ、メイドは素直が一番なんだな」
「あの……ご主人さま……」
「た、たまりんのとっておきの場所に触ってあげるんだな」
「っっ……!!」
 環は思わず顔をしかめてビクンと震えた。
 男の指が股間に触れてきたのだ。割れ目をなぞるようにねっとりといじりはじめる。
「んっ……だめぇっ……」
「ハアハア、プニプニしてるんだな」
「周りに気づかれるぅ」
 下を向いて表情を悟られないようにする。
 我慢していても環の膝はビクビクと震えていた。

「なんだかタマ姉の様子が変じゃない?」
 離れた位置から環の働きぶりを観察していた貴明が異変に気づいた。
「もしかして気分でも悪いのかな……? ねえ、雄二?」
「ご主人さまもいっしょに~、まぜまぜ~、まぜまぜ~」
「まぜまぜ♪」
「真面目に聞いてる、雄二?」
「うるせぇなぁ。今はミミたんとおまじないの最中だろうが」
「そうじゃなくて」
「不良グループ相手でも返り討ちにするような古武術の達人だぞ、貴明もよく知ってるだろ」
「そうだけどさぁ」
「お前もミミたんにケチャップでお絵かきしてもらえよ」
「いいよ、俺はそういうのは」

「んっ、はぁ……た、タカ坊っ……」
「ハアハア、たまりんのここがクチュクチュいいだしたんだな」
「う、うそっ……」
「パンティーの横から指を入れるんだな」
「だめよっ、これ以上はっ!!」
 男性客の指が横から入って来た。
 直接環のアソコに触れる。
 環はビクンと大きくのけぞった。甘い電流が駆け抜ける。
「はぁっ……だめぇ……」
「い、息が荒いんだな」
「はぁはぁ……」
「エステルームに行くんだな。お、オプション料金を払うんだな」
「エステルーム??」
「ハアハア、そ、そこでたまりんをもっと可愛がってあげるんだな」
「……それって……あの噂ほんとなの??」
 一部の常連客だけ特別に、個室でマッサージを受けるオプションサービスがある。
 他にも裏オプションと呼ばれるサービスがあることを他のメイド仲間から環は聞いていた。
「た、たまりんにおこづかいをあげるんだな」
「でも……」
「ほ、他のメイドもしてるんだな」
「……どうしよう」
 深刻な顔つきで思い悩む、環。
 だが相手は最高ランクのメンバーズカードを所持した常連客なのだ。車の修理代を払う必要もある。

「あれ、タマ姉、席を立ってどこに行くんだ?」
 環が男性客と一緒に通路の奥に消えたのを見て、貴明は不思議に思った。
「体調でも悪いのかな」
「トイレじゃないのか」
「そうかなぁ」
「貴明は心配しすぎだろ」
「それならいいけど……」
「食った食った。帰りにゲーセンでも寄ってこうぜ」
「う、うん」
 雄二にうながされて、貴明は後ろ髪を引かれる気持ちでメイドカフェを後にした。

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