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ボルスター
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2015 / 02 / 28
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 学校の校庭には、伝説の樹と呼ばれる古くからある大木がある。卒業式の日にその木の下で女の子から告白して生まれたカップルは永遠に幸せになれるという伝説で、とくにロマンティストの詩織はその伝説を本気で信じている。俺にはよくわからないが、卒業式の日に告白する相手をすでに決めているようなことをいっていた。往々にして女子の多くがそうであるように、詩織も多分に漏れず思わせぶりだ。


 風が涼しい日、俺は詩織に電話した。
 すでにどっぷりと日は落ちて、テレビでは夜のニュースをしていた。考えてみればおかしな話だ、窓を開ければすぐに面と向かって話せる距離なのに。
「もしもし、俺だけど」
「〇〇くん?」
「ちょっといいか」
「ごめんなさい。いまお風呂からあがったばかりなの」
 窓を開けて隣の部屋を見る。カーテンには部屋の明かりに照らされ詩織のシルエットが浮かんでいた。タオルを使って髪を乾かしているみたいだった。
「明日の数学の課題なんだけどさ、やった?」
「数学B? それなら終わってるわよ」
「さすが詩織っ!」
「もしかしてまだなの?」
「すっぽり忘れててさ」
「あきれた。またゲームをしてたんでしょ」
「ゲームといわれればゲームのような、そうでないような」
「電話切るわよ」
「冷たいなあ。たった一人の幼なじみが赤点取ってもいいのか」
「いつもそういわれてる気がするわ。課題を見せてあなたのためになるのかしら」
「そこを頼むよ、詩織が欲しがってたクラシックのCDをプレゼントするからさ」
「しかたないわね」
「やりぃ! 助かるよ」
「ちょっと待って」
 カーテンが開いて詩織が姿をあらわした。体にバスタオルを巻いて、赤い髪がまだしっとりと濡れていた。トレードマークのヘアバンドをしていなかった。まとまった前髪が卵みたいな額にかかっていた。
 バスタオル姿にドギマギしている俺をよそに、詩織は窓から身を乗り出してノートを渡してくれた。お風呂上がりのいい匂いがした。
「なに見てるのよ、もうっ」
「サ、サンキュー! 助かるよ」
「はぁ、前日にならないとやる気が起きないのは変わらないのね」
「ほんと詩織が隣で感謝してる」
「受験生なんだし、勉強は自分でしないとダメよ」
「わかってるって」
「なんだか心配だなぁ」
「ところでさー」
「なぁに?」
「槍地先輩と親しいのか?」
「え……」
 珍しく詩織が言葉に詰まった。視線が一瞬横に動いた気がした。
「べつに……ふつうよ」
「普通?」
「ただの先輩と後輩よ」
「そっか」
「もしかして心配した?」
「当たり前だろ、幼なじみなんだし」
「ふ~ん、それだけ?」
「なんだよ」
「私が先輩と付き合ってるって思ったのかなーって」
「そ、そんなわけないだろ」
「残念でした、先輩とはたまにドライブに行ってるだけよ、うふふ」
「マジで?」
「私が卒業するまで誰とも付き合う気はないの知ってるでしょ?」
「チェッ、余裕ぶってさ。学校のアイドル様は違うよな」
「あー、そんなこというなら先輩の彼女になっちゃおーかなー、なーんて」
「おどかすなよ。マジで先輩だけはやめといたほうがいいぜ、詩織は信じないかもしれないけど先輩は女に目がないからさ」
「私、そんな子供じゃないんだけどなぁ」
 詩織は窓枠に片手をついて、顔を横に傾けちょっと拗ねたみたいな表情をしてた。
 俺の視線はバスタオルの結び目とそこから覗く胸の谷間に釘付けだった。

「ねえ、久しぶりね。こんなふうに窓越しに話すの」
「そうかもな」
「風が気持ちいい」
「湯冷めするぜ」
「そうしたらあなたに看病してもらおうかしら」
「詩織さえ良ければな」
「うふふ、ほんと?」
「そういえばさ」
「??」
「好雄が撮らせてくれってさ、詩織のヌード」
「えっ!?」
 詩織はびっくりした様子で、大きく開いた片手で口もとを押さえていた。
 バスタオルがずり落ちるんじゃないかって、俺はそっちのほうが気になった。
 俺は笑い飛ばしたけど詩織はそうじゃなかった。
「バカだろ、アイツ」
「あなたは、私の裸を好雄くんに見られても平気なの?」
 今度は俺が言葉に詰まる番だった。
「そういう意味じゃなくてさ」
「じゃあ、どういう意味なの?」
「それは、えっと……」
「いいわよ、もうっ!」
「おい、詩織」
「好雄くんに私がヌードモデルになるって伝えればいいんだわ」
「なに逆ギレしてるんだよ」
「べつに逆ギレなんてしてないわよ」
「してるじゃん、その顔」
「してないわよ!!」
「マジわけわかんね」
「知らないっ、〇〇くんのバカ!!」
 最後の一言はとくに大きな声で家の前の道路まで響いていた。
 詩織はカンカンで、カーテンをすごい勢いで引っ張って閉めた。
 

 そのことを写真部の部室で一眼レフカメラの手入れをしていた好雄に伝えると大笑いされた。
「笑い事じゃないぜ、まったく」
「また詩織ちゃんに嫌われたな」
「なんだよ、好雄は詩織のヌードを撮りたいんじゃなかったのかよ」
「嫌われたら元も子もないだろ。それよりこれを見ろよ」
 好雄がノートパソコンを開いて、画面をタッチした。
「おおお」
 そこには詩織が仲のいい美樹原さんとペアになって体育館でストレッチしている写真があった。
 美樹原さんは前髪を切り揃えた、栗色の長い髪をしていて、とてもおとなしい女の子だ。詩織は、メグ、メグ、と読んでいる。小動物っぽい女の子ともいえる。
 ブルマ姿の詩織は床に左右に大きく脚を開いて座って、背中を美樹原さんに押してもらって体を前に倒す運動をしていた。とくに開脚したブルマの股間がやばかった。盛り上がった肉丘の真ん中にマンスジの陰影がはっきり見えていた。健康的なお色気がムンムンだ。
「我ながらグッジョブだろ」
「変態の王様だよ、好雄は」
「おだてるなよ。もっとすごいお宝があるぜ」
「もっとすごいの?」
「目ぇかっぽじって見やがれ」
 目はかっぽじれないだろ? という俺の思いが一瞬で消し飛んだ。
 学校のシャワー室で、シャワーを浴びている詩織の写真だった。ところどころ靄がかっているがあきらかに裸だ。
 テニスの練習をしたあとなのだろう、詩織は髪が濡れないようアップにして、気持ちよさそうにシャワーで体の汗を流していた。降り注ぐ水滴を弾いて、玉のような雫が詩織のグラマラスな体をつたって流れ落ちていた。ピンク色をした可憐な乳首がかすかに見える。下腹部には濡れた淡いかげりがあった。髪と同じ赤い色をしていた。
「ぐうの音も出ないだろ。いつものアイコラじゃないぜ」
「いつのまに撮ったんだよ」
「ついこの間な」
「シャワー室にカメラを仕掛けたのか?」
「チッチッチッ」
「じゃあ、どうやって?」
「夕子にさ。好雄様の権謀術数を甘く見るなよ」
「夕子?」
「そのぶん手間賃は高くつくけどな。詩織ちゃんの裸を拝めると思えば安いもんさ」
 その手があったかと納得した。同じ女子なら難なくシャワー室に入ることができるし、顔見知りなので詩織も油断するだろう。
 朝日奈夕子はシャギーのかかった、くすんだ夕焼け色の髪をした流行に敏感な女の子だ。おしゃべり好きで勉強の成績はいつも低空飛行スレスレだけど悪い奴じゃない。ノリが軽いことをポジティブに受け取れば、砕けてて肩肘張らずにつきあえる。俺や好雄ととても仲が良くて一緒に遊ぶと鉄板で楽しい。
「夕子の奴、今月もピンチらしくてさ」
「どうせ携帯の使いすぎだろ」
「まー、おかげでこうして詩織ちゃんのヌード写真をゲットできたわけだしさ。それにしてもすげえ気持ち良さそうにシャワーを浴びてるよな」
 俺も好雄も詩織の二房のたわわなバストばかりに注目していた。水が胸の谷間を伝って流れているところなど、俺がこれまで見てきたどのグラビア写真も超えていた。あのバスタオルの下にはこの裸があったわけだ。
「これで処女って罪作りだよな。古式さんのもあるぜ」
 藤色の三つ編みをした古式ゆかりさんの裸は、詩織のそれに比べるとあきらかにスレンダーだった。胸の膨らみは手の平サイズで、お尻の肉の付き方も詩織には及ばない。お嬢様育ちの彼女はおっとりとしていて、とてもゆっくりとした口調でしゃべる。男子にスカートをめくられても「あれええ~~。スカートを、めくられてしまいました~~」とのんびり反応するぐらいだ。
「あとでUSBメモリに入れてやるから家でじっくり楽しめよ」
「持つべきものは好雄だな」

「それでさ、俺もあのあと詩織ちゃんと何かあるかとヤリチンについて調べたけどさ――」
 好雄は画面をタップして、ブラウザに切り替えた。
「これが奴のFBな」
 フェイスブックには、改造した車の写真や遊びに行ったであろう、大勢の男女が混み合って踊っているクラブの写真などが多数掲載されていた。他には腕にいれたタトゥーをアップで写した画像もあった。例えば今日はパチンコにいって何万円スッたなど、内容も薄っぺらで他愛のないものばかりだった。
「これっぽっち詩織ちゃんのことは書いてなかったぜ」
「LINEの方は?」
「そっちも調べてみた」
「で、どうだ?」
「なりすましを使ってグループに入ってみたけどとくに問題はないみたいだな」
 なりすましをさせたら好雄の上を行く奴はいない。俺も女子になりすました好雄に何回も騙されてきた。
「たまに連絡を取ってるぐらいか」
「先輩とLINEしてたのか」
「するだろ、それぐらい。それよりも問題なのは」
「なんかあったのか?」
「例の雑誌のほうだよ。あれって毎号DVDが付録でついてるだろ?」
 好雄がいってるのは、ナンパした女の子を実際にインタビューしてるDVDのことだ。男性スタッフがいろいろ聞きながら女の子に卑猥なポーズをさせたりする。それを活字として起こしたのが記事になっている。
「詩織ちゃんの動画だけなかっただろ?」
「カットしてくれって頼んだんじゃないのか、ネットにアップされたら困るからって」
「わざわざ特集記事を組んでてか?」
「個人情報を特定されるとマズいとか」
「もしくは蛇が出るか」
「ハア?」
「念のため調べてみたんだよ。詩織ちゃんほどの美少女をナンパしておいてカメラを回さないはずがないからな。あるとすればサーバーにあるはずなんだよな、出版元の」
「で?」
「鼻がきくと思うだろ?」
「どうなんだよ」
「どうもこうもないさ。ファイアーウォールでバッチリはね返されちまった」
「それだけか?」
「ああ、ここでおてあげでもするか」
「ハッキングしたり、どっかでアクセスパスを手に入れるとか方法があるだろ」
「無茶いうなよ。相手はれっきとした企業のサーバーだぜ。プログラミングをかじった程度の素人に歯が立つわけないだろ。なるとすれば紐緒さんに頼むとかだな」
 紐緒結奈さんはきらめき高校きってのマッドサイエンティストだ。
 ぱっと見はクールビューティーで、科学部兼電脳部・部長、世界征服を目標に日夜部室にこもって研究に没頭している。制服の上に白衣を纏い、ダークブルーの色をした前髪を斜めに垂らし、いつも片目を隠している。
「某国の人工衛星をハッキングするすご腕だからな。企業のサーバーなんか1分クッキングだろ」
「ちょっとこのノートパソコンを借りるな」
「おい、待てよ。せっかちか」
 俺は好雄のノートパソコンをかっぱらうと、科学部兼電脳部の部室へ廊下を走った。
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