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ベネディクション
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2014 / 06 / 28
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「我々なら勝てる」
「サポートします」
「優雅に行くよ。食らいたまえ!」

 ――ギュブッラアア!!

「美しき勝利だねえ」



 昼下がりの厩舎でルキナを見つけた。空は雲一つない天気だった。
 ルキナは、繋がれたファルコンに餌を与えていた。
「やあ、そいつもキミのことがお気に入りみたいだね」
「ルフレさん」
「ファルコンの操獣もだいぶ板についてきたね」
「お母様の指導のおかげです。ペガサスはただの乗り物ではない、お互いをいたわり支え合う、仲間としての意識が一番大切だと、そう教わりました」
「スミアらしいや。それでルキナのファルコンはピカピカなんだね」
「ふふっ。ちょうどいい泉を見つけて、そこで水浴びをしてあげてきたんです」
「聞いただけで、気持ちよさそうだ」
 僕がおどけて肩をすくめると、ファルコンが大きく首を上下に振って嬉しそうに嘶いた。
「空からだと色々な物が見えるんですよ」
「楽しそうだな」
「ルフレさんもこの子に餌をあげてください」
 ルキナは母親のような仕草でファルコンの額を優しくなでる。
 戦場での安らぎの一コマだ。
 それにしても、と視線が動く。
 ルキナの着ている服装が気がかりだった。群青色の軍服はそのままだが、ショートパンツではなくタイトスカートで、タイツも女の子らしい太ももがチラリと見えるストッキング(黒)に変わっていた。マントとくすんだアメジスト色の長い髪、凛々しい顔つきはそのままだけに、よけいに色っぽさがアップしている。
「どうして今日はいつものショートパンツじゃなくて、そのー、短いスカートに変わってるのかな?」
 率直に訪ねてみた。軍師というよりも夫としての疑問だった。
「なにかへんですか?」
「へんというわけじゃないけど。とても女の子らしくて似合ってるよ」
「ありがとうございます」
「でも、その格好でファルコンに跨がったりしたら……前からルキナのパンティーが見えるんじゃ……」
 出撃前も、荒くれ兵士たちがファルコンの前に立ちふさがって「王女様、これから出撃ですか?」「今日は敵を惑わすおつもりで?」などと話しかけながら、スカートの奥を眺めてニヤニヤしていた。
「ちょっと短すぎない?」
「そうですか? 天馬騎士団のみなさんも同じような服装ですよ」
 ルキナはいたって普通だった。
「そう言われれば、そうだね」
 天馬騎士団(の正式装備)もスミアも、装備の露出が大きかったりする。とくに下半身の。これはイーリス軍の伝統なのかもしれない。
「タイツもやめたんだね」
「はい。そのほうが見栄えがいいからとヴィオールさんに言われまして」
「っっ……!!」
 最近、僕といるよりもヴィオールと一緒にいるほうが長い。
 今日も戦闘が終わった後も、二人でファルコンに跨がって空をデートみたいに散歩していた。
「ヴ、ヴィオールにはなんて言われたのかな」
「こちらのほうが王女らしいと言われました。あと、私には女性としての魅力が足りないと」
「そんなことないよ。ルキナは十分美人だし、魅力的だよ」
「ふふっ。ありがとうございます。ルフレさんは優しいですね」
 そう言いながらルキナは、タイトスカートの裾を引っ張り下げていた。
 どちらかというとスカートを履き慣れていなくて居心地が悪いみたいだった。夫の僕でさえ、そっちに目がゆく。
「ところでさ」
「はい?」
「この頃、よくヴィオールの天幕に出かけてるだろ? あれは何をしてるの?」
「それは、えっと……」
 急にルキナが口ごもる。
 まるで何かを隠しているみたいに、きりっとしたルキナの切れ長な瞳がどこか別の場所を見ていた。
 片手を腰に下げたファルシオンの柄にあて、もう片方の手で耳元にかかる、くすんだアメジスト色の髪をかきあげる。
「複数の敵に囲まれたときに、どう動くべきかとか。王女としての立ち振る舞いなどです」
「王女としての立ち振る舞い?」
「はい。未来では、そういう勉強をする機会がありませんでしたから」
「社交界の作法みたいなの?」
「それもありますね」
「ヴィオールにへんなことされてない?」
「えっ……?」
「たとえば、舞踏会のダンスを教えるふりをしてお尻をタッチされたりとか、キスを迫られたりとか」
「いえ、べつに……」
「ふ~ん。それならいいけどさ」
「だ、だいじょうぶです。ヴィオールさんはとてもいい人ですよ」
「それはルキナがすごく美人の女の子だからだよ。僕はどちらかというと気に入らないな。キザだし、女性には誰でも色目を使うだろ?」
「そうですね……」
「そうだ。近くの街に買い物でも行かない? 息抜きにさ」
「今から、ですか?」
「うん。ルキナに似合う服を買ってあげるよ。あといい魔道書がないか見ておきたいし」
「ごめんなさい」
「なにか予定でもあるの?」
「ヴィオールさんと森の方を哨戒して回る約束が……」
「こんな時間に? 偵察ならティアモたちがするはずじゃ」
「そ、その……もう時間だから行きますね」
 慌てるように、ルキナは僕の前を走って去った。
 マントが広がる背中で、くすんだアメジスト色の長い髪が揺れるのを見て、僕は妙な胸騒ぎを感じてしまった。



 それから僕は天幕の前をウロウロして、ルキナの帰りを待ちわびていた。
「……ずいぶん落ち着きがないみたいね」
「うわあああ!!」
 急に黒い人影が現れて、僕は飛び上がって驚いた。
「び、びっくりした……サーリャか。いつのまに、驚かさないでよ」
 いつもこうだ。完全に気配を消して僕の後ろに立っているのだから性格が悪い。
「うっふふふっ。あいかわらず冷たいのね」
 すごく暗いトーンの声で僕をなじる。病的な両目で恨めしそうに僕を見ていた。
 見た目もそうだが、サーリャはとても陰湿で根暗だ。彼女はいつも大事そうに両手で魔術書を抱えている。正直、僕でなくとも気味が悪い。
「ねえ、心配事があるみたいね」
「サーリャには関係ないよ」
「ふふっ。どうせあの女のことでしょ」
 僕はギクリとした。
 サーリャは表情の乏しい顔の唇をややつり上げて笑っていた。
「……もしかしてずっと見てたの?」
「うっふふふっ……そんなことより、あの女が今ごろどうしてるか知りたいんじゃない?」
「え、二人を見たの?」
「あの女のことなんか私が知るわけないでしょ」
「じゃあ」
「……いいものがあるわよ」
 そう言って、サーリャはローブの奥から真っ黒い水晶玉を取り出した。
「なに、それ?」
「ガーゴイルの眼」
「!?」
「心配しなくても本物の眼じゃないわよ、くくっ」
「ほ、ほんとかなぁ……」
「これに念じれば離れた場所にいる相手の様子を見ることができるわよ」
「まさかぁ」
「信じるも信じないもあなたしだいよ」
「わ、わかったよ。信じるよ」
「ふふっ。見れるのは一日に一度だけよ。あと、気が散ると水晶がそっぽを向くから集中しなさい」
「あ、ありがとう」
 僕は半信半疑だった。
「あのさ、どうしてこんな親切をしてくれるの?」
「うっふふふっ……私がルフレのことを好きだからに決まってるじゃない。当然でしょう」
 サーリャが薄く笑って、僕は背すじがぶるっとした。



 さっそく天幕に戻ると、サーリャにもらった水晶玉をテーブルに置いた。
 意識を集中してルキナの姿を念じる。真っ黒だった水晶玉が、白い煙が渦巻くようにしだいに透明になっていった。
「ルキナだ!」
 椅子から身を乗り出して目を凝らした。
 水晶玉にはどこか川の畔を、くすんだアメジスト色の長い髪と背中のマント揺らして歩くルキナと、男のくせに髪を伸ばしたヴィオールが一緒に映っていた。
 思わず舌打ちしたくなる。首元のヒラヒラ(スカーフ?)がいかにもこじゃれた貴族風情だ。
 ルキナは怪我をしたのか、足取りがややぎこちなかった。
「敵に襲われたのか!?」
 僕は急に心配になった。
『ここで休もう』と、ヴィオールが落ち着き払った声で言った。
 手近な岩に腰掛け『すみません』と謝る、ルキナ。
『謝ることじゃないよ、ルキナくん』
『しかし……』
『私でも、あんなところに屍兵がいるとは思わないよ』

(屍兵? こんなところに??)
 軍師としての勘が違和感を感じた。
 いくら屍兵が神出鬼没といえど、少数で森に突如あらわれて人間を襲うことはまずない。
 どちらかといえばある程度の部隊を組んで、夕暮れ近くから夜間にかけて街や村を集団で襲う。
 もしルキナたちが遭遇したのが敵の哨戒兵ならば、近くに屍兵の大部隊がいるはずだが、そんな気配もない。というか、そんな部隊がいれば、当然他の見回り兵が気づくはずだ。
(ほんとうに屍兵だったのか??)

 ルキナは屍兵に襲われたことよりも、自分が敵の攻撃を避けきれなかったことにショックを受けてるみたいだった。
『傷は痛むのかい?』
『いえ、たいしたことは』
『見せてもらうよ』
『本当に大丈夫です』
『遠慮もよりけりだ。私はルキナくんのパートナーではないか』
『ですが……っっ!!』
『ほら、我慢はかえって仲間に迷惑をかけるよ。矢に毒が塗ってあったら一大事だ』
 ヴィオールはルキナの正面にしゃがみ、手で膝の内側を押し広げるようにブーツを履いた両足を大きく開かせた。さもそれがデュアルを組むパートナーの役割であるように。
 当然、ルキナのタイトスカートの奥が見られることになる。
『っぅ!』
 ルキナの、さらに色白い、ストッキングとタイトスカートの隙間の内ももに、赤いかすり傷が出来ていた。
 ルキナは手をついて、体を斜めに支えていた。例えヴィオールに下着を見られているとしても表情を変えないところがルキナらしかった。
『大変だ。麗しいルキアくんの肌が台無しだ』
『この程度、かすり傷です』
『そうはいかないよ。イーリス国の王女に怪我をさせたとなれば、家名にかかわる』
 ヴィオールは、貴族の男子が淑女の手の甲にキスをするようにかすり傷の場所に顔を近づける。
『念のため毒を吸い出させてもらうよ』と、口をつけて吸いはじめた。
『くっっ……ヴィオールさん』
『すこし痛むかもしれないよ、ルキナくん。安心してくれたまえ』
『ですが……んっ』
 口では紳士を装っているが、ヴィオールの行いは治療を建前にルキナの柔肌を直接味わっているのに他ならない。かなり際どい内もも部分を、時間をかけて執拗に舐めまくっていた。
『唾液には傷口を消毒する効果もあるんだよ』
『そ、そうなんですか……物知りですね』
『それにしても高貴な柔らかい肌だ。まるで天使に口づけをしてるみたいだよ』
 そうしてじわりと伸びたヴィオールの右手が、タイトスカートの奥に隠れるルキナのパンティーを巧みに擦りだす。
『ヴ、ヴィオールさん……手が……くっ』
 岩に座ったまま、身を捩るルキナの表情にはじめて緊張が走る。
 とっさに片手でタイトスカートの前を押さえて、動きを封じようとしていた。
『ん? 私は毒を吸ってるだけだよ?』
『そ、そうじゃなくて手がっ、はっ』
『手がなんだい?』
『わ、私の、そこに当たってますっ!』
『このほうが痛みがまぎれるだろ?』
『ああっ、へんなふうに指を動かさないでくださいっ……なにかへんですっ』
『ふふっ、あくまで貴族的にね』
(まずいぞ!? ルキナ、股間を触られて感じてるんじゃないのか!?)
 これが未来からやって来たばかりの彼女なら、王女らしい毅然とした態度でヴィオールを撥ねつけていただろう。
 しかし、いまやルキナの体は、ルキナ自身が知らないうちに快感に目覚めている。
 僕のせいだ。
 ルキナは、そのことに激しく混乱しているみたいだった。
 自分の体が感じることの意味もわかっていないように、ストールを巻いた首を動かして、くすんだアメジスト色の髪をざっくりと揺らしていた。
 敵に捕まって拷問を受け、それでも必死で堪えているみたいに眉間にしわを作る。
 タイトスカートがほとんど腰の高さまでめくれ、そのうちルキナの少女らしい内ももはヴィオールの唾液でべっとりになった。
 ヴィオールの指先が、ルキナのスリットを下着越しに間断なく摩擦を続ける。
 その場所が潤みを帯びて、聞き覚えのある密やかな水音がしはじめた。

 その行いが僕が息をするのも苦しいぐらい続いていただろうか。
 ルキナの表情が火照りを帯びてぼーっとしてくる。
 抵抗する意思が弱くなったみたいだった。
 ブーツの両足を弛緩気味に開いた格好で、後ろに手を着いて眠たそうに体を支えて、トロンとした視線で弾む息を乱していた。
 額にかかったくすんだアメジスト色の前髪が横にずれる。
(ル、ルキナ……!!)
 僕は水晶玉を掴みかけた。
 これはまやかしか幻影の一種ではないだろうかと疑った。でも、そう思うにはあまりにリアルすぎた。いつもの凛々しさが崩れ苦悶に満ちゆくルキナの表情も、キザでなれなれしいヴィオールの口調も。

『どんな感じがする?』
『む、胸がドキドキします』
『いけないねえ。毒が回ってきたのかもしれないよ』
『ハアハア、ヴ、ヴィオールさん……もう指を動かすのをやめて、ください』
 いつもハキハキとしたルキナとは別人のよう女性的な声色だった。
 すっかり精神を消耗したみたいに、限りなく平面に近い軍服の胸部を上下にあえがせていた。
 声を出すのも体力を使うのだろう。
 僕はルキナもあんな色っぽい表情をするんだと衝撃だった。切れ長な瞳が潤み切っている。気力を振り絞って、マントにかかった長い髪を左右に振り乱す。
『ここをルフレくんに触られたことはないのかい?』
『あ、ありません……ルフレさんは、こんな破廉恥なことはしない』
『おやおや。これがどうして破廉恥だと思うんだい?』
『っっ……!!』
『どれも反応が初々しいねぇ。さすがイーリス聖王国の王女様だ。青い若草のようだよ』
『んっ、はあ、またへんに……!!』
『すごい汁だ、伝説のシーダ姫よりも麗しい』
『も、もう、やめてください』
『仰せのままに。それがレディを守る貴族の勤めだ』
 そのまま離れると見せかけて、ルキナの肩に片手を置いて覆い被さるように顔を重ねる。
 流れるような、矢筒から矢を取り出し狙い澄まして弓を射るような一連の動作だった。
 その瞬間、マントの揺れるルキナの体がピクンと反応した。
 とっさにヴィオールの体を押し飛ばそうとしたルキナの手が、力なく奴のシャツを掴む。
 まるで息を止めてるみたいに、二人の顔と顔が重なったまま時間が止まってしまった。
 しばらくして顔をどけると、ルキナは悔しそうに下唇を噛んでうつむいた。
 風が吹いて、前髪がルキナの美しく凛々しい表情を隠す。

(ルキナ!! ヴィオールに唇を奪われたのか!?)
 そっちのほうがショックだった。
 僕は椅子を後ろに倒して立ち上がる。
 映像がフッと消えた。そうして水晶玉は、元のただの真っ黒い玉に戻ってしまった。
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