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ベネディクション
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2014 / 06 / 28
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「運命を変えます! ハアアッ!!」

 ――グアアアア!!




「お疲れさま、ルキナ」
「あ、ルフレさん」
 戦闘後の野営地で、仲間たちに囲まれているルキナを見つけた。
 長くて、くすんだアメジスト色の髪をした、鋭くも凛々しい横顔。
 探さなくてもすぐわかる。ルキナはいつもストールを巻いた、肩当のある群青色の軍服に風になびくマント、ブーツ、それにイーリス聖王国・伝承の剣『ファルシオン』を帯刀している。
 一見すると15歳ぐらいの、華奢な少年兵という感じだが、彼女はれっきとした女の子だ。それも並みの敵兵であれば10人ぐらいあっと言う間に倒す腕の戦士の。
 果たして一対一で対峙して、ルキナに勝てる兵士がイーリス軍に何人いるだろうか?
 ルキナは闇に覆われた運命を変えるべく、神竜ナーガの力によって未来からやって来た。
 クロムの娘でイーリス聖王国の王女様でもある。

 僕の声に即座に反応したルキナは、デジェルやウードらに手を振って小走りに駆け寄ってきた。
 ほのかにルキナの香りがする。
 まだ裏表のない笑顔で僕をまっすぐに見つめる。
 森の奥深くで人知れず水を湛えている泉のような、青みがかったルキナの双眸――。その左目の奥には、王族の血を継ぐ者の証である聖痕が暗く輝いている。

「どこにいらしたんですか? 探したのに」
「いやあ、クロムと明日以降の段取りについてちょっとね」
「お父様と?」
「ああ、今日も大活躍だったね」
「これもルフレさんのおかげです」
「ちがうよ、みんなのだろ?」
「あ、はい。お父様と皆さんのおかげです。それに……やっぱりルフレさんの……」
 そう言って、ルキナはわずかに頬を染めた。
 まるで初めて異性を意識した少女のように。戦闘中のルキナとはまるっきり別人だ。戦場でのルキナはスピードと気迫で相手を圧倒する。
 気恥ずかしそうにくすんだアメジスト色の髪を後ろに払った彼女の左手の薬指には、僕の贈ったリングが自慢そうに輝いていた。

 ――好きです。
 二人に、どんな未来が訪れようとも……せめて今は、今だけは、このまま……


 風雲急を告げる戦乱の最中、僕とルキナは永遠の愛を誓った。
 いまはヴァルム帝国との戦争中なので式は挙げていないが、イーリス軍のみんなが祝福してくれた。

「明日はこのまま街道を南下することになりそうだよ」
「そうですか」
「その顔は何か心配?」
「いえ……。ただ、ヴァルム兵の攻撃が激しくなった気がします。今日もティアモさんが弓兵の待ち伏せを受けて危ない場面がありました」
「あと、屍兵の襲撃だろ? どちらかというとルキナはそっちのほうが気がかりなんじゃないの?」
「はぁ……。さすがイーリス軍の軍師というべきですね」
「ルキナのことは、とくにね」

 眉間に力を入れた、やや難しい顔をする。
 それはもうルキナの癖と言ってもいい顔つきだった。
 不安に感じるのは無理もないことだ。
 滅びの運命をたどった未来で、ルキナは殺戮と絶望に支配された世界を目の当たりにしてきた。
 そのことは僕もクロムも知りようがない。

「ルキナの言う通り、邪竜ギムレーの復活が近づいているのかもしれない」
「!?」
「また難しい顔をしてる」
「でも」
「そうならないようにみんなこうして戦ってるんだろ?」
「は、はい……」
「大丈夫だよ。クロムも僕もいるからね。作戦もいまのところ順調だ」
「……」
「それに、まえも言ったと思うけど全部を一人で抱え込んで考えすぎるのは良くないよ」
「ごめんなさい、つい」
「まあ、ルキナが不安になる気持ちもわかるよ。とりあえず今は目の前の敵に集中しよう。ヴァルム側もこちらの作戦に気づいたみたいだしね」
「はい。もう平気です」
「うん、いい笑顔だ。その笑顔があれば兵士たちの士気も上がる」
「ふふっ、それも策の内ですか」
「ほんとだよ。ルキナは美人だから兵士たちに大人気だからね」
「私がですか?」
「うん。みんなルキナとデュアルしたいって言ってるよ」

 これは本当の話だった。
 剣の腕がたしかなうえに美人のルキナは、男性兵士がデュアルを組みたい相手ナンバーワンの女性ユニットだった。
 デュアルとは、戦場で男女のユニットがタッグを組み、二人一組で行動する戦闘方法のことだ。
 機動力が上がって行動範囲が広がるだけでなく、2対1の局面を作ってデュアルアタックやデュアルガードが発生しやすくなる。
 その他にもデュアルを組んだペア同士で友好度がアップするという副作用もある。
 かくいう僕も、ルキナとデュアルを組むことで親しくなった。
 これはデュアルを組むようになって知ったことだが、ルキナには勇ましい一面とは別に意外と(?)女の子らしい面が多分にある。
 例えば僕がヘマをして敵の攻撃を食らって怪我をしたとき、自分のシャツを破いて包帯のかわりに手当てをしてくれたり、行軍の合間に一人でペガサスに餌を与えて話しかけたりしている。とくに花を贈ったときのルキナの表情は、彼女が年頃の女の子であることを強く意識させた。

「でも、私にはルフレさんが……」
「僕もルキナ以外とデュアルする気はないよ」
「良かった……」
「もしかして不安になった? 僕が他の女の子とデュアルするんじゃないかって?」
「べ、べつに」
「ほんとう?」
「ルフレさんは意地悪です」
「ははっ。ルキナは正直だね。すぐ顔に出る」
「はぁ……。なんだか負けた気分です。やはり私はまだ子供ですね」
「そんなことないよ。ルキナは立派な女の子さ。さあ、一緒に夕食に行こう」
「はい。あっ、今日はブレディが食事当番らしいですよ」
「へー、それは楽しみだ。またマリアベルにお小言を言われてるのかな」
「そうですね。うふふ……あの二人ってすごく仲がいい親子ですよね」

 ルキナは、強面のブレディがお嬢様のマリアベルにしごかれている場面を想像したらしく、ぷっと吹き出すのを押さえて、薔薇がそよ風に花びらを揺らすように柔らかく微笑んでいた。
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